ななえ耳鼻咽喉科クリニック
萩 原 秀 夫
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸 症候群とは、いびきをよくかく、夜中に目が覚めてしまう、日中の眠気やだるさが抜けないなどの症状を持ち、1時間に5回以上、10秒以上の 無呼吸や低呼吸が睡眠中にみられる状態を指します。
睡眠時無呼吸症候群は日頃の健康に影響を与え、メタボリックシンドロームヘの誘因となる可能性があります。睡眠時無呼吸症候群の多くは上気道の途中で閉塞が生じる閉塞型です。そのメカニズムは扁桃や舌根部などが肥大して上気道を閉塞し、睡眠中呼吸が止まる ことにあります。いびきが生じて呼吸が止まると胸腹部の動きが小さくなります。すると無呼吸あるいは低呼吸となり、血中の酸素飽和度が下がり始め、脳の呼 吸中枢が危険を感知して呼吸を促すように体全体に指令が行き、再び呼吸が始まる。これが睡眠中に繰り返されるのです。
睡眠時無呼吸症候群の診断の流れ
睡眠時無呼吸症候群と診断するには患者さんの日常生活や現病歴は大切な情報源であり、それらをもとに診察を行います。睡眠時無呼吸症候群が疑われるとなる とX線などの画像診断とともに簡易型呼吸モニター検査を行います。その結果、睡眠中1時間当たり5回以上の無呼吸・低呼吸があれば睡眠時無呼吸症候群が疑 われるので治療や指導を行います。
もし20回以上あれば治療法の選択を検討するため1泊入院して精密検査(終夜ポリソムノグラフ)を行います。検査の結果 20回未満なら生活指導をした上で外科的治療や歯科装具の装用などの治療法を組み合わせて選択することになります。20回以上であれば、CPAP(シー パップ)とよばれる呼吸補助治療も選択肢に加わります。
いろいろな治療法
CPAPは上気道に強制的に陽圧した空気を鼻や口から送り込み、閉塞部位を押し上げて睡眠の質を向上させる装置で、その特徴は簡単な操作にあり、特に副作 用もなく安全です。しかし、あくまで睡眠中の呼吸を補助する対症療法ですので、使用していれば睡眠時無呼吸症候群が治るのではないことに留意してください。
歯科装具は上下一体型あるいはセパレート型の歯型のようなもので下あごが上あごより数ミリ前方に出るようにしつらえたものです。下あごが前方に出ることに より舌後方の咽頭腔が広がり、睡眠中に閉塞しないようにするものです。適応例として無呼吸指数が20~40程度の、舌後方の咽頭腔が狭く、睡眠中に閉塞し やすい症例やCPAPや手術が困難あるいは希望しない患者さん向きです。利点としては携帯には便利で、CPAPと併用しても使用できます。しかし、歯が少 ない方や重度の歯周病には使えませんし、顎関節症を起こしやすいという短所もありますので使用にあたり歯科での診察や治療が大切です。
外科治療は主に耳鼻咽喉科で行うのですが、閉塞部位が上気道のどこにあるかが治療のポイントになります。鼻腔の場合、閉塞を起こす疾患として多い鼻中隔湾 曲症、慢性副鼻腔炎、鼻ポリープ、アレルギー性鼻炎といった疾患の治療が優先されます。またCPAPを行うにしてもマスクを装着するため、鼻が詰まってい れば効果は上がりません。次に、大きい口蓋垂や扁桃、舌根部の肥大が原因で起こる咽頭腔の狭窄。口蓋垂や扁桃肥大が主な原因の場合、口蓋垂や軟口蓋、咽頭 形成術(LAUP,UPPP)の手術を行います。無呼吸指数が20以下の比較的軽症の患者あるいは単にいびきが大きい人を対象とするCPAP手術は局所麻 酔下で行うことが多く日帰り手術となります。一方、無呼吸指数が20以上40以下の中等度の患者が対象となる手術には入院治療が必要です。
舌根部の肥大が 原因の場合、レーザーを用いて舌根部を切除する方法がとられます。手術治療の長所としては歯科装具やC踏Pなどの装具を使わないで済むこと。またCPAP を使用するにしても鼻が詰まっていれば十分な効果が出ませんから特に鼻閉には鼻の手術は効果があります。短所として手術に伴うリスク出血や疼痛などの他 に、手術法により入院が必要です。また手術後、傷が瘢痕化し再び咽頭腔が狭窄することがあります。
睡眠時無呼吸症候群とメタボリックシンドローム
成人の睡眠時無呼吸症候群患者は肥満が原因となって咽頭腔が閉塞しているケ-スがほとんどです。また肥満はメタボリックシンドロームの主囲となるもので す。睡眠時の無呼吸から組織が低酸素状態となり、低酸素血症と高炭酸ガス血症によるアシドーシスが出現します。これは自律神経系に影響して高血圧、糖尿病 などの誘因となり、脳血管障害を引き起こす原因になります。また耐糖能異常の頻度が高くなることから睡眠時無呼吸症候群の患者はメタボリックシンドローム の合併率が高くなるといわれています。このような結果にならないようにするためには今から肥満対策を考えていただきたいと思います。
肥満対策
自分の体格指数(BMⅠ)を知り、1日どれだけのエネルギーを摂取すればよいのか目安を知ることから始めて下さい。また日本人に不足がちなカルシウムや鉄 やビタミン類と食物繊維も忘れずに摂取して下さい。食事ばかりでなく運動もバランスよく取り入れてください。
たとえば、体脂肪を1カ月かけて1kg減らそ うとすると、毎日歩行では約1時間、水泳や縄跳びなら約30分行うことになります。
現在メタボリックシンドロームで治療中の方のみならず、いびきや睡眠障害の悩みを抱えている方は睡眠時無呼吸症候群の有無を医療機関で調べていただき、栄養バランスを考えた食生活や目常の運動を始めてみましょう。